政府方針の脱ハンコ化 不動産取引での脱ハンコ化はどうなる?
脱ハンコの流れが民間の不動産取引にどう影響するのか、不動産取引分野の脱ハンコ化について考えてみましょう。
【目次】
コロナ騒動でニュースの前面に出てくる機会が減ってしまいましたが、去年、河野太郎行政改革担当大臣主導の元で強力に進められた「脱ハンコ」の流れは今も確実に進んでいます。
自治体や行政機関内部で使用される無駄なハンコも、政治主導でどんどん廃止が決定されているようです。
※細かい違いはありますが、本章では「ハンコ」、「押印」「印鑑」をほぼ同じ意味で用いていますのでご了承願います。
政府の公式見解も「ハンコは必ずしも必須ではない」
日本独特の文化と言ってもいい「ハンコ」ですが、実は昔からその存在意義を問う声は継続してあり、不要論も根強くありました。
契約の際には必ずと言っていいほど押印を求められますが、実はハンコが無くても法律上、契約は有効に成立します。
口約束で契約は成立するものの、後で言った言わないの水掛け論を阻止するため、重要な契約は通常書面で取り交わされ、さらに契約当事者の押印を求めることがほとんどです。
ただ、何らかの方法で契約当事者の本人性が確認できれば、必ずしもハンコは必要ないだろうというのが今般の脱ハンコムーブメントが起きた理由です。
近年のデジタル技術の進歩などにより本人確認がとりやすくなっているので、いよいよハンコの存在意義が問われる時代となったわけですね。
日本政府も昨年2020年の6月には公式見解として、特段の事情が無ければ官民、あるいは民民(民間)の取引においてハンコは必ずしも必要ないという考えを示しています。
この見解にはテレワークを推進するという政府の意図があり、メールの履歴などで当事者の意思が証明できれば、ハンコを押すために出社するという無益な行動を無くすことができるので、これを意識していると思われます。
不動産取引分野ではハンコはどうなるのか?
では民間の不動産取引分野で脱ハンコが進むのかどうかについて考えてみましょう。
先ほど、ハンコが無くても契約は有効とお話ししましたが、不動産の売買取引においても同様です。
ただし不動産取引は大きなお金が動きますから、利便性よりも安全性を重視しなければいけません。
以前、地面師による不動産の乗っ取り事件で大手不動産業者が騙されて大きなニュースになったことは記憶に新しいと思います。
詐欺などのリスクを避け安全な取り引きを目指すには、厳格な本人確認と当事者の「売る」「買う」の意思が確実であることを担保する必要があり、そのためには印鑑証明のシステムを用いた本人確認が実務上求められます。
何らかの画期的な方法が開発され、印鑑証明を用いるよりも簡単に、且つ確実に本人確認ができるようになれば別ですが、今のところそのような動きはありません。印鑑証明は自治体に登録した印鑑で押印し、印影が確認できる証明書を役所で発行してもらうという比較的軽い負担で本人性を担保できます。
不動産売買取引の契約書への調印の際や、所有権移転登記の手続き、あるいは不動産に抵当権を設定する際などにも実印が求められ、こうした方面でのハンコ需要はしばらくは続くと予想されます。
不動産取引でハンコに実印が必要となるケース
不動産の取引では契約手続き以外にもハンコが必要となるケースが多くあります。
その中でも実印を使用する場面が多くなりますのでどういった場面で使用をするのか見ていきます。
売買契約書への捺印
不動産の売買契約の取引では契約書へ捺印をしなければなりませんが、契約書への捺印をするハンコは実は認印でも可能となります。
実際には契約の際に契約書がなくても諾成契約(口頭での意思表示と承諾)で成立させることが出来ます。
しかしながら不動産取引はとても高額な取引となり、問題が発生した場合に揉めやすい取引の為、売主と買主の両方の意思表示を反映させるために契約書を作成し、証拠として残すようになっています。
実印を使用する場合は原則的に印鑑証明書を添付して、当事者が自分自身で捺印をしていることを証明することを目的としています。
認印での捺印では100円均一やハンコ屋さんで簡単に取得出来てしまうので、悪く言えば他の人が捺印が出来てしまうという状況となります。
特に物件の所有者本人かどうかは見た目では分からない為、なりすましなどを避ける為にも実印をもって証明するようにする不動産会社は多くあります。
取引の安全に行う為にも実印が使用されるケースは多くなっています。
金融機関との融資手続き
不動産を現金で購入する場合には必要はなくなりますが、購入をする際には金融機関から住宅ローンの融資を受ける方が大半です。
金融機関との間で住宅ローンを借りる契約(金銭消費貸借契約)を行いますが、この際に実印での捺印と印鑑証明書の提出をするようになります。
住宅ローンを借りる際、金融機関では建物や土地を担保として抵当権を設定する為、物件の所有者としうことを証明する為に実印での捺印が必要となります。
金融機関では審査の段階で売買契約書の原本確認やコピーを提出するようになりますが、実印で捺印された契約書であれば本人確認がしやすくなることがあります。
登記申請手続き
売買契約を締結し物件を引き渡す際には売主から買主へ所有を移転させる必要があります。
この手続きは所有権移転登記と言いますが、登記の申請については司法書士へ依頼することが一般的です。
申請の書類について売主が捺印するハンコは実印を使用することになります。
しかし、登記に関しては売主も買主も司法書士へ委任するようになりますのでどちらにしても司法書士へ依頼する為に委任状を作成しますので実印と印鑑証明書が必要となってきます。
また、登記の種類によっては実印を使用しなくても手続きが行えるものがありますので司法書士へ確認すると良いでしょう。
今後の脱ハンコ化への流れ
技術の進歩や法整備などと絡めて、各方面の脱ハンコ化は今後も進んでいくものと思われます。
例えば令和3年2月15日には商業登記規則等の一部を改正する省令が施行されており、会社の設立登記をオンラインで申請する場合には、一定の手続きを踏むことで印鑑の提出が任意となりました。
不動産業界のIT化は他業界に比べて遅い印象がありますが、コロナの流行を受けてここ最近では「IT重説」や「オンライン内見」などのサービスが普及してきた印象があります。
他業界で脱ハンコの取り組みが行われ、成功事例が共有されれば不動産の分野においても脱ハンコの流れが加速するのではないでしょうか。
民間の不動産取引においても、印鑑なしの安全な取り引きが可能になれば将来的にハンコなしの取引が普通になる日がくるかもしれません。
脱ハンコともなればオンラインでの手続きが簡略化でき、遠方にいる方や高齢者の方などの取引も簡単に行えるようになります。
問題となっている空き家問題なども空き家の売却や買取においてもオンライン手続きや脱ハンコ化が進めば問題解決も前進しますので期待をしたいところです。
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記事監修者 かながわ行政書士事務所 代表 池田 晴香
行政書士
かながわ行政書士事務所ホームページ:https://kanagawa-gyosei.com/
WEB制作会社に営業として勤務後、学生時代から就職後も続けていた音楽関係の仕事をきっかけに
ラジオパーソナリティー、ナレーション、朗読などの声の仕事を始める。 30代、行政書士の仕事をスタート。
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