国土交通省が心理的瑕疵・事故物件でガイドラインを制定。事故物件の告知義務が変わる
不動産分野における長年の課題の一つに、いわゆる事故物件の告知義務に関する問題があります。
事件・事故などで死亡者が出た物件について、不動産の借り手や買い手にその事実を伝えなければならないのか、伝えるとすれば何を、どの程度、いつまで告知する義務があるのか、これについて公的な指標となるガイドラインの案が発表されましたので、本章で見ていきます。
ガイドラインを定める理由
不動産取引の際には売買、賃貸に限らず自殺・他殺などの死亡事故や事故死、火災などがあった場合にはその内容を買主や借主に告知をしなければなりません。
心理的瑕疵に該当する物件では買主、借主によって考え方が異なるので事故が起きた部屋は絶対ダメという人もいればリフォームやリノベーションなどにより部屋が改装されていれば問題ないという人もいます。
一旦事故物件となり告知が必要になってしまうとトラブルを避ける為にずっと告知をしなければならないのか、いつまで告知をしなければならないかという事態が発生してしまいます。実際には適切な告知や取扱いに係る判断基準がなく、取引現場の判断が難しく不動産会社や所有者の考え方によっても告知の期間が異なることがあります。明確な取り決めをすることで円滑な流通、安心できる取引が阻害されているという意見から今回のガイドラインを定める動きが出てきています。
ガイドライン案の性質
まずこのガイドライン案の性質ですが、現状では国民からの意見を広く聞くためのパブリックコメントの募集に先立つ「仮の案」という段階です。公的に確定したわけではないのでこの点は誤解のないよう留意が必要です。
今年2021年秋ごろまでには、募集したパブリックコメントの精査や追加の検討などを加え、正式なガイドラインが発表される見通しです。
ガイドライン案での告知義務の内容や期間は?
発表されているガイドラインの案では、事故物件の告知が必要な期間について賃貸の方では3年間とし、売買では期間について明示されていません。告知の対象となるのは、大枠として借り主や買い主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性のあるものとされています。
まず告知の対象から外れる事案として、自然死や老衰による死亡、病死、日常生活で生じる不慮の事故などが挙げられています。前提にある考え方として、そもそも人はいずれ死ぬものであって、自然死はもちろん、病気や転倒による事故死なども当然起こりうるものである、という考えが基にあります。
これにより、例えば入浴中の転倒による死亡や食事中にのどを詰まらせて死亡したようなケースは告知対象から外れることになります。ただし、死亡後長期間放置されて特殊清掃が必要になったなどの事案では、死亡の原因が自然死であったとしても告知が必要としています。
自殺や事件による死亡については告知の対象となりますが、部屋の中で起きた事案だけでなく、ベランダや廊下などの共用区画で起きたものについても告知の対象になるとされています。逆に隣接する住戸や前面道路における事件事故については原則として告知対象とならないとしています。ただしその場合も全ての事案が対象外になるわけではなく、取引当事者の意向を踏まえつつ適切に対処する必要がある、としています。
借り主、買い主が知り得る事実項目は?
告知義務に該当する事案の場合、借り主や買い主が知り得る事実項目をまとめると以下となります。
・告知対象となる事実の発生時期
・告知対象となる事実の場所
・告知対象となる事実の死因
死因については事件なのか事故なのか、自殺なのか他殺なのかといった死亡に至る外観上の原因を指します。不明の場合は「不明」で処理されます。当該死因の事実が発生した時期や場所も告知対象となるので、貸し主、売り主の側はこれらの事実を借り手や買い手に伝えることになります。冒頭でお話ししたように告知義務の期間については賃貸が3年で、売買については期間の設定がされておらず、今後の検討を待つということになります。
また現段階ではガイドライン自体が案の段階で、公式に策定されたわけではありません。ガイドラインが公式に策定された場合、直接の法的拘束力は持たないとしても、個別事案で裁判沙汰になった場合などは裁判所が参考資料として使用し、判断に影響することが予想されます。
告知義務に関するガイドラインの策定については今後の不動産取引に大きな影響を及ぼすと考えられますので、引き続き注目していきましょう。
高齢化社会の住宅事情に注意
現在高齢化社会となっており、すべての人が持ち家ではない為、高齢者のみで賃貸を探すケースも少なくありません。ここで1つの判断となるのが高齢者の入居をどうするかという点です。万が一孤独死となってしまった場合、発見が早く自然死の状態であれば告知義務はありませんが、発見が遅れた場合には事故物件となってしまう可能性があり、この場合には告知をしなければなりません。
2018年の東京での65歳以上の孤独死は3867件と全体の7割となっています。
(参考:国土交通省(参考)死因別統計データ)
高齢化社会となれば借り手も高齢者が必然的に多くなります。賃貸でマンションやアパートなどの賃貸物件を貸し出す際は十分に対策を取る必要があります。
(参考:国土交通省「不動産取引における心理的瑕疵に関するガイドライン(案)」)
記事監修者 かながわ行政書士事務所 代表 池田 晴香
行政書士
かながわ行政書士事務所ホームページ:https://kanagawa-gyosei.com/
WEB制作会社に営業として勤務後、学生時代から就職後も続けていた音楽関係の仕事をきっかけに
ラジオパーソナリティー、ナレーション、朗読などの声の仕事を始める。 30代、行政書士の仕事をスタート。
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